タイラー・ハミルトン(右)とランス・アームストロング |
お正月休みに、元プロ自転車選手のタイラー・ハミルトンとスポーツライターのダニエル・コイルの共著による「シークレットレース」(小島修訳、小学館文庫)という本を読んだ。ハミルトン氏は、学生時代アメリカのオリンピック代表候補になるようなアルペンスキーの有望選手だったが、ケガのため自転車ロードレースに転向し、ランス・アームストロングが活躍していた時代に同じチームでアシスト役を務めた。それだけでなく、自身もツールドフランスでステージ優勝し、アテネオリンピックの個人タイムトライアルで金メダルを獲得するなど、超一流のロードレーサーであった(後にこれらの公式記録はすべて剥奪された)。
この本を読むと、有能で純粋無垢な若手スポーツ選手が何故ドーピングに染まっていき、如何にしてsuper-human athlete になったのかよく分かる。ドーピングの具体的な方法も詳細に記述されている。また、ツールドフランス七連覇の英雄がどのような人物で、当時のドーピングの蔓延とどのように関わっていたのか、主人公とランス氏との確執の様子が赤裸々に描かれている。疲労のため寝込んでいた選手が、血液ドーピングによってピンピンに元気になってしまう件は、なんとなく可笑しい。逆に、ドーピングの蔓延にも関わらず、これに抵抗し告発を試みた少数の勇気ある選手たちが辿った悲しい運命についても知ることが出来る。この本にもあるように、1990年代半ば以降のツール優勝者を含む上位入賞者のほとんどにドーピング疑惑があり、実際に多くの有力選手が出場停止処分を受け、ランス氏の7連覇を含む延べ9年間の優勝記録が剥奪されている。
自転車ロードレースがこのように無残なことになってしまった原因は、ドーピングを行った選手の問題というより、競技統括団体であるUCIの腐敗と無為にあるように感じられた。それ以外にも、選手報酬の高騰、想像を絶する競技の過酷さ、ドーピング技術の革新などあげられるが、つまるところ、そういったことを含む競技の文化や歴史全体に帰せられるのかもしれない。
ランス氏の近況はココ↓。
Life after Oprah
These days, Lance Armstrong lives what he calls a more simplified life
この本のクライマックスは、主人公のドーピングが明るみに出て、社会からバッシングを受けロードレースの世界から追放され全てを失った後、真実を告白することでどのように立ち直っていくか、その心理描写にある。終盤、「ドーパーは最低」と書かれたジャージを着た若いローディーを主人公が古いマウンテンバイクで追いかけていくくだりは秀逸。自転車競技に限らず、「競争」の本質が何であるか考えさせられる、この数年読んだ中でピカイチの面白い本でした。
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